江戸前・不良少女の舌とリズムが、親鸞の高揚と吐息と体温とを伝える
伊藤比呂美
たどたどしく声に出して読む歎異抄
2012年4月6日 四六判・160頁
本体価格1600円 ISBN978-4-906791-00-2
歎異抄・正信念仏偈・和讃・書簡の現代日本語訳。
現代を生きる詩人が、自らの語感と文体のすべてをかけて翻訳に挑戦しました。
口語体の念仏や唱名が、風にまじる口笛のように、心に沁みとおります。
江戸前・不良少女の舌とリズムが、親鸞の高揚と
吐息と体温とを伝える
目次
ゼロから始める歎異抄
1 たどたどしく声に出して読む歎異抄
歎異抄 前
2 旅
歎異抄 後
3 旅
和讃 ひかりのうた
4 旅
親鸞書簡 前
5 旅
親鸞書簡 後十一 旅のつづき
6 旅
和讃 かなしみのうた
7 旅
恵信尼書簡
8 旅
和讃 母や子のうた
9 旅
正信念仏偈 〈むげんのひかり〉さま
10 旅
和讃 うみのうた
著者紹介
いとうひろみ●1955年, 東京都生まれ. 詩人. 84年より熊本市在住. 97年からはカリフォルニア州を拠点としつつ, 熊本市とカリフォルニアとを往復する, 文字通り旅の生活. 作品に, 『草木の空』(78年, 第16回現代詩手帖賞受賞), 『青梅』『テリトリー論』『ラニーニャ』(99年, 第21回野間文芸新人賞), 『日本ノ霊異ナ話』『河原荒草』(2006年, 第36回高見順賞),『とげ抜き 新巣鴨地蔵縁起』(07年, 第15回萩原朔太郎賞, 07年, 第18回紫式部文学賞), 『読み解き「般若心経」』などがある. エッセイ集に, 『おなかほっぺおしり』『良いおっぱい悪いおっぱい』『女の絶望』など。
立ち読み
カズさんの編集後記
下町言葉の辻説法
「わたし」じゃなくて「あたし」、「さきほど」じゃなく「もうさっき」……
首都東京のど真ん中に生きている言葉。「あさしひんぶん」なんて言って、からかっちゃいけません。
個々の単語は消えても、その発声とリズムと気合いは息づいています。
その言葉で、親鸞を訳すとどうなるか。
私なんぞ、どんなに頑張ったって「地獄がすみかと決まっている」。
地べたで生き死にする人間の目の位置から、がんとして動こうとしなかった親鸞。「下町の辻説法」調から聞こえてくるのは、意外にも「ただの人」であり続けることが、どれほど複雑な作戦を必要とするものか、ということです。「救い」の前で、あるいは教団の中で、どちらが先に立っているかをめぐる競争。この人間的あまりに人間的なあり方を、自らにも人にも決して赦そうとしなかった「含羞の人」、そんな親鸞の像は的をはずしてはいない、と思います。
「てやんでえ~、べらぼうめ」って言葉の裏には、恥じらいがあったんですね。