イダコが語り継いだ東北版「安寿物語」
民俗文化の創造性と東北のパワー
坂口昌明
安寿 お岩木様一代記奇譚
2012年10月15日刊行四六判・320頁
本体価格2900円 ISBN978-4-906791-08-8
土俗の調べに耳を澄ませ、民俗文化をその底で支える芸能と言葉の力とを探る。
東北の農村地帯を単独行する盲目の女性が語った、安寿の受難と再生の物語。聖なる山、「お岩木様」の由来譚でもあるこのドラマを、森鷗外の小説や、説経節「山椒大夫」と比較しながら、その魅力と方言の秘められたパワーとを掘り起こしていく。
雀追(ぼ)りを致(いだ)する
つそう丸ぁ恋(こや)しいじゃほいほいと
埋(い)げらえたるあんじゅが姫ぁ恋(こや)しいじゃほいほいと
奥浄瑠璃やオシラ祭文など北の説話の古層に、民衆芸能本来のやさしい調べと語りの原エネルギーとを聴き取る。
目次
序章 「お岩木様一代記」が語られた日
第一章 「母おさだ」の世界
第二章 「あんじゅが姫」の受苦
第三章 両界まんだら行脚
第四章 説話的要素を解きほぐす
第五章 北の説話の古層を掘る
第六章 さんせう太夫の亡霊、津軽を席捲
第七章 津軽オシラ祭文考
第八章 母たちの夜の祭
第九章 赤倉山神とゴミソの契り
第十章 猿賀神社の片目魚伝承
終章 イダコ桜庭スエ一代記
解説 永田典子
後序
お岩木様をめぐって 加藤秀俊
それぞれの「さんせう」 ジェフリー・アングルス
「メタファー思考」の臨界 鷲見洋一
──追憶の坂口昌明さん
坂口昌明 略年譜
作品一覧
著者紹介
坂口昌明
1933年生まれ。2011年、逝去。詩人、在野の民俗学研究者。 東北の言葉と民俗芸能の力とを、長年にわたって探求する。著書に、詩集『旅する椅子』(1965)、詩人論『一詩人の追求──小山正孝氏の場合』(1987)、音楽論集『モーツァルトの現在』(共著、1991)、東北の詩人論・言語論『みちのくの詩学』(2007)、遺作詩集『月光に花ひらく吹上の 坂口昌明詩集』(2012)。本書の主題である「お岩木様一代記」の原文校訂と現 代語訳を、桜庭スエ口述・竹内長雄採録・坂口昌明編として津軽書房より刊行(2011)。