血で書かれた未刊の超大作──宗教の発生
小川国夫
ヨレハ記
2012年12月14日刊行 四六判・624頁
本体価格5600円 ISBN978-4-906791-10-1
「キトーラ国」を舞台に展開する壮大な物語のうちに、神に臨まれた人間の苦悩と栄光とをちりばめた、作家畢生の超大作。
本書の刊行をもって、小川文学の全容が初めてその姿を現した。
「聖書に書かれなかったこと」を書く──キリスト教という異質な信仰のかたちを受け入れた日本の思想史・精神史における、独自にして類例のない結晶。
ヨレハとは、
キリスト出現以前の呪術がはびこっている混とん状態に出現した、呪いの預言者といってよい人物です。このような人物をとりあげたのは、宗教はなぜ発生してきたのか、宗教は人間の外からくるのか、心の奥からくるのか、その両方からくるのだとすれば、その関係はどうなっているのか、このようなことを考えてみようとしてなんです。
──小川国夫談話・1977年
目次
ヨレハ記 神に眠る者
ヨレハ前記 白い駱駝の川
ヨレハ中記 棗椰子の林
ヨレハ後記 神に眠る者
ヨレハ記終篇
這う人
硫黄 ヨレハの死
後記 聖書の影響 小川国夫
解説 宗教の発生──旧約聖書物語の構想 勝呂 奏
後序 隠れた神──『ヨレハ記』をめぐる私考 菅野昭正
小川国夫の思い出 加賀乙彦
島尾敏雄の読む旧約 司 修
著者紹介
小川国夫
1927年、静岡県生まれ。2008年4月8日、帰天。旧姓静岡高校時代にカトリックの洗礼を受ける。50年、東京大学国文学科入学。53年、パリ大学に留学。この頃、単車ヴェスパを駆って地中海沿岸を旅する。56年に帰国し、留学と放浪の体験から生まれた『アポロンの島』(57年)によって、文壇に登場する。以降、『試みの岸』『或る聖書』『彼の故郷』『悠蔵が残したこと』などにより、「内向の世代」を代表する作家の一人と目される。86年、「逸民」で川端康成文学賞、94年、『悲しみの港』で伊藤整文学賞、98年、『ハシッシ・ギャング』で読売文学賞受章。91-95年、『小川国夫全集』全14巻刊行。また没後に、『弱い神』『襲いかかる聖書』(2010年)、『俺たちが十九の時──小川国夫初期作品集』(12年)などが刊行されている。聖書にかかわる評論・エッセイには『イエスの風景』(1982年)、『聖書と終末論』(87年)、『隠された無限』(埴谷雄高往復書簡、88年)、『私の聖書』(94年)などがある。