異貌のイエス、福音書に書かれなかったこと
──小川国夫の聖書世界が、ここにその全容をあらわす。
小川国夫
イシュア記 新約聖書物語
2014年11月21日刊行 四六判 554頁 上製・函入り
本体価格5,600円 ISBN 978-4-906791-39-2 C0093
前著『ヨレハ記 旧約聖書物語』に続いて、作家小川国夫が終生をかけて書き継ぎ、その多くが未刊のままに残された「新約聖書物語」を集成する。
ここに、独自の福音書の読み込みをもってする、キリスト教文学史に類例のないイエス像が刻み出された。
イシュア、〈あの人〉、そしてユニア……神の働きが臨み、人間の世界に生まれた三つの渦潮。すべてを受け入れる者、疑いにその心を苛む者、嫉妬に身を焼く者、それぞれの全存在を賭けた闘いが、水晶に彫られたレリーフのように硬質な光沢を放つ。
宗教は、キリスト教は、なぜ発生し、人をどこへ連れて行こうとするのか。一人の作家に抱かれた問いが、その生涯においてどのように変奏され、湧出と曲折と逸脱の痕跡を残したか。ここにあるのは、人間の条件をめぐる神と人との対話であり、血で書かれた小川国夫の福音書である。
目次
イシュア前記
〈あの人〉
ともに在りし時
なぜ我を棄てたまいしか
その血は我に
ユニア
使徒
枯木
葡萄の枝
アポロナスにて
マンドラキ
囚人船
塵に
光と闇
諸書
命の中の死(肉の神学
血と幻
十二族
骨王
準イエスをめぐって 小川国夫
解説 勝呂 奏
著者紹介
小川国夫
1927年, 静岡県生まれ. 2008年4月8日, 帰天. 旧姓静岡高校時代にカトリックの洗礼を受ける. 1950年, 東京大学国文学科入学. 53年, パリ大学に留学. この頃, 単車ヴェスパを駆って地中海沿岸を旅する. 56年に帰国し, 留学と放浪の体験から生まれた『アポロンの島』(57年)によって, 文壇に登場する. 小説作品には, 『試みの岸』『或る聖書』『彼の故郷』『悠蔵が残したこと』『悲しみの港』『ハシッシ・ギャング』ほかがある. 91-95年, 『小川国夫全集』全一四巻刊行. また没後, 『弱い神』『襲いかかる聖書』(2010年), 『俺たちが十九の時──小川国夫初期作品集』『ヨレハ記 旧約聖書物語』(12年)などが刊行されている.