クザーヌス 生きている中世──開かれた世界と閉じた世界

中世を鏡として、現代の世界をトータルに捉え直す

  ──大きな物語の改訂に向けて

 

クザーヌス 生きている中世

    開かれた世界と閉じた世界

 

八巻和彦

 

2017425日刊行 ISBN978-4-906791-68-2 C1010

A5判・上製 510頁 本体予価5600

 

■ 壮大な転換期に違いない現代の世界を、構造的にとらえ、新しい世界のヴィジョンを描くことは可能だろうか。グローバリズムとナショナリズムの台頭、

IT社会と格差社会、大きな物語の崩壊と断片化する知識……。

 15世紀中世、旧世界の破局を目の当たりにしたニコラウス・クザーヌスの格闘を鏡として、今日のさまざまな破綻の様相を照らす。古い神学体系に抗い、近代への転回を促したとされるクザーヌスの思想の秘密はどこにあったのか。

 

 

■ 老子の道とクザーヌスの覚知的無知、西田の絶対矛盾的自己同一とクザーヌスの反対対立の合致──自己相対化を受け入れ、他者に開かれたあり方こそ、クザーヌスの創造性を保証するものであった。現在の世界規模の自閉と暴力とを超えて、平和と共存への新しい物語を紡ぐために。

目次

 序章 中世から現代を読む

     ──グローバリゼーション、アイデンティティ、そして普遍的正義

  I 破局の諸相

第1章    原発破局「フクシマ」の原因を探る

 ──哲学の視点からの一考察

第2章    現代日本におけるアイデンティティの分裂

第3章    日本社会における〈社会崩壊〉と企業活動

第4章    近代的思考様式の限界についての一試論

 ──「科学・技術」との関わりを中心にして

  Ⅱ 他者の衝撃

第1章   『信仰の平和』におけるタタール人像

 ──〈破局〉のただ中での〈他者〉への眼差し

第2章   クザーヌスにおける理性の普遍性と哲学の複数性

 ──『信仰の平和』を中心にして

第3章   〈他者〉の豊饒性

  Ⅲ 語りえぬものへの〈開かれ〉と〈閉ざされ〉

第1章   西田幾多郎におけるクザーヌスとの出会い

第2章   東アジアにおける〈知恵〉概念の伝統とクザーヌスの〈知恵〉概念

 ──〈知恵〉と〈道〉、〈無学者〉と〈愚人〉

第3章   西欧における「開かれた世界、開かれた書物」

  Ⅳ 大きな物語の改訂

第1章   〈文明の衝突〉の時代の宗教的寛容論

第2章 〈文明の衝突〉を超える視点

 

 終章 現代に生きる中世 

著者紹介

八巻和彦(やまき・かずひこ)

 

1947年生まれ. 専攻,中世哲学・文明論. 現在, 早稲田大学商学学術院教授.国際クザーヌス協会学術顧問. 京都大学博士(文学), 中世からルネサンス・近代への転換期を生きた哲学者・神学者クザーヌスの研究を中心として, 近代の根にあるものに光を投げ, 大きな曲がり角に立つ現代の根源的な問題性を明るみ出そうとする. 著書,『クザーヌスの世界像』(創文社,2001,『境界に立つクザーヌス』(共編,知泉書館,2002,Nicholas of Cusa, A Medieval Thinker for the Modern Age”(編著, Curzon Press, 2002, 『「今を伝える」ということ』(編著, 成文堂, 2015,『日本のジャーナリズムはどう生きているか』(編著, 成文堂, 2016)ほか. 翻訳書, ニコラウス・クザーヌス『可能現実存在』共訳, 国文社, 1987, クザーヌス『神を観ることについて 他二篇』(岩波文庫, 2001, L.ハーゲマン『キリスト教とイスラーム 対話への歩み』(共訳, 知泉書館, 2003)ほか.